ライブレポート

『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2018』
2018年10月7日(日)鹿児島市・桜島多目的広場&溶岩グラウンド


明治維新から150年。鹿児島の象徴である桜島の麓で、音楽維新の狼煙が上がる!

10月7日(日)、8日(月・祝)の2日間、鹿児島市・桜島多目的広場&溶岩グラウンドにて行われた『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2018』(以下、GSH)。この日、台風25号直撃の予報を覆して、桜島は雲ひとつない快晴! 夏が戻ってきたような、絶好の“ヘス”日和に恵まれ、早くも最高の一日になることを予感させてくれた初日の朝。

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鹿児島港から桜島フェリーで15分の船旅を楽しみ、会場にやってきたオーディエンスが続々と押し寄せ、広々とした会場が早朝から笑顔と期待で埋められていく。
入場口を入ると右手にはアコースティック&DJ、芸人専用の“与論ステージ”、そしてフードエリア、雑貨&ワークショップ、オフィシャル&アーティストグッズ売り場を擁する溶岩グラウンドエリア。

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左手にはメインステージとなる“薩摩ステージ”と“大隅ステージ”を擁する桜島多目的広場が配置。桜島多目的広場に入ると、青々とした芝生の大きな広場に薩摩と大隅の両ステージが垂直に並び、大隅ステージの背後には桜島が堂々とそびえ立つ! 最高のロケーションとこれから起こるたくさんの奇跡に胸が高まる中、オープニングアクトを務める、なみだ藍のステージでついに『GSH』の幕が上がる。

アコギを背負って、たった一人で大隅ステージに登場したのは、鹿児島に音楽フェスの礎を築いた『WALKINNFES!』の推薦枠として登場した、鹿児島出身・若干18歳の女性シンガー・ソングライター、なみだ藍。「今までで一番大勢の人の前で歌ってます」と少し緊張した様子を見せながら、「夏の終わりの歌を聴いて下さい」と「蛍光日和」を披露。だんだん緊張がほぐれ、堂々としたステージングを見せる彼女の姿は実に凛々しかったし、明日を担う地元・鹿児島の若いミュージシャンがこのヘスのオープニングを飾ることに大きな意味を感じた。

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オープニングアクトに続き、発起人であるタブゾンビ(SOIL&”PIMP”SESSIONS)がステージに登場。「構想から13年、ついに実現しました」と感慨深げに語ると、「(この快晴は)僕じゃなくて、みんなが持ってるから。“俺が台風をそらせた!”と自慢して下さい」と絶好の天気でこの日を迎えた喜びをみんなと分かち合い、開会を宣言。

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朝の9時半スタートという、どうかしてる時間からスタートした『GSH』のトップバッターを飾ったのは、岡崎体育。朝イチからフィールドを埋め尽くす観客を「騒ぎたくて、楽しみたくて、踊りたくて、仕方ないんでしょう?」と挑発すると、会場中を巻き込む歌とトークとパフォーマンスで、笑いとダンスの渦を生む。「岡崎体育はそんなに好きじゃないけど、興味本位で見てる人?」の質問に手を上げた人を見て、「多っ!」と驚いた彼。トラブルも機転を効かせて乗り越え、大盛り上がりへ導いた彼のステージに、興味本位で見ていた人も絶対にファンになったはず。

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大阪人ならではの楽しいトークと心に響く真っ直ぐな歌のギャップで、聴く者の心をがっちり掴んだのは大隅ステージの一番手を務めた、ベリーグッドマン。演奏が進むごとに観客が増え、盛り上がりが増し、「Good Time」や「ベリーグッド」に会場中が手を上げて声を合わせる。

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「2018年10月7日、桜島の麓で新たな歴史が動き出す!」と力強く宣言したテスラは泣かない。

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福永浩平(Vo)の「ただいま!」の挨拶で始まった雨のパレードと、鹿児島出身のバンドが続いた薩摩ステージは、地元に錦を飾る気合いと気迫に満ちたステージに観客が熱狂。雨のパレードはゲストにタブゾンビを呼び込むと、「タブさんの実家の本屋でよくマンガを買った」と思い出話を語り、貴重なセッションも披露。

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大隅ステージでは始まった瞬間に会場の空気を変え、圧倒的演奏力で観客を自身の音楽世界へ引き込んでいったペトロールズ、

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自由に丁寧に思い切り楽しんで演奏する最高に心地よいバンドサウンドが大自然に溶け込んだSPECIAL OTHERSと、独創的かつ本格的な演奏を聴かせるバンドが続き、野外で楽しむ音楽の楽しさと素晴らしさをオーディエンスに届ける。

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フィールドを溢れるオーディエンスを集めたNulbarichは、グルーヴィーな演奏と自然体が魅力的なJQのパフォーマンスで観客の体を揺らし、イントロに歓声が上がった「ain’t on the map yet」は会場中が声を合わせる。

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江口雄也(Gt)が鹿児島出身、田邊駿一(Vo&Gt)も祖母が鹿児島と、鹿児島との深い縁を語ったBLUE ENCOUNTは、「ロック代表で来た。熱いのやるから!」と「Surviver」で始まるフェス仕様の曲を連発し、前のめりなステージで観客を圧倒すると田邉が客席に降りて観客との一体感を生み、「もっと光を」では会場中の大合唱を起こす。

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水曜日のカンパネラは、ステージに敷かれた巨大な布を風船状に膨らませてステージ演出に使ったと思えば、風船状の布が観客の頭上を覆い、その間にステージを降りたコムアイが客中を走り回り、フィールド後方に建てられた脚立に乗ってのパフォーマンスで魅せる。強烈な個性を放つ出演者たちが、大型フェス初開催の鹿児島で次々と圧巻のステージを魅せ、初めてフェスに参加するであろう人たちも含むオーディエンスが熱狂する風景を見て、僕はここから何かが変わる予感を強く感じたし、音楽維新というのもまんざら大げさではない気がしていた。

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「花束」の美しいハイトーンでライブが始まり、フィールドを埋め尽くす観客の拍手と大きな歓声が起きたのは鹿児島出身の歌姫、中島美嘉。しっかり聴かせるバラードソングにアップテンポな曲にと、自身の魅力をぎっしり詰め込んだステージで魅せると「ただいま、鹿児島」とキュートな笑顔を魅せる。鹿児島の地で歌う姿が、いつも以上に凛々しく美しく見えた彼女。ラストは「雪の華」の美しい歌声でそこにいる全ての人を魅了。

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熱く激しく繊細に、「ミレニアム」で始まるライブで自身の世界観を丁寧に構築していったACIDMANは、大木伸夫(Vo&Gt)が「タブ(ゾンビ)くんとは宇宙を語る宇宙友達です」と語り、この時代に生き、この場に集えた奇跡や喜びを語る。発起人であるタブゾンビの呼びかけに、それぞれが強い想いをもって鹿児島に集い、短い持ち時間の中でその想いを全力で表現する。現在、全国には多数のフェスが乱立するが、ここでしか見れないステージや景色、ここでしか感じることが出来ない想いやメッセージが『GSH』にはあると僕は断言する。

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桜島に西日が差しこみ、涼しい風が吹き始めた頃、大隅ステージにはRHYMESTERが登場。「夏、締めたつもりだったけど、終わらせないね!」と嬉しそうに語り、「ONCE AGAIN」でライブスタート。“人力HIP HOP”と自らのスタイルを語る、宇多丸とMummy-Dの息が合ったマイクパフォーマンスで圧倒すると、「メンツ最高。ここに集まった人はセンスいい!」と宇多丸が言い、「今日、桜島が噴火したら、日本の音楽シーンは終わりだよ」とMummy-Dが笑う。

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続いて、薩摩ステージに登場したのはEGO-WRAPPIN'。「めっちゃ気持ちいいやん! もっと気持ちよくなりたい人!!」と中納良恵(Vo)が煽り、夕焼け空の下で演奏された「BRAND NEW DAY」はあまりにもハマりすぎてて、鳥肌が立つほど。ビッグバンドの演奏と堂々とした歌声でド肝を抜くと「ヒット曲たくさん持って来たから」と「サイコアナルシス」、「くちばしにチェリー」を披露。テンションの上がりまくった中納が隣のステージまで走って行くアグレッシブなパフォーマンスも見せ、観客を大熱狂させる。

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すっかり陽も落ちた頃、派手やかなライティングで彩られたステージに登場したのは、TK from 凛として時雨。激しく切なく苦しく、感傷的なボーカルとエッジィなギターを鳴らすTKの感情を、鍵盤とバイオリンを擁するバンド編成で丁寧になぞらえた楽曲たちが、聴く者の胸にダイレクトに響く。イントロに歓声が上がった「unravel」でクライマックスを生むと、「見た感じは怖いけど、楽しみたい気持ちは僕も一緒です」と小さな笑顔を魅せる。
己の美学を貫くTKの孤高の存在感を見せつける圧巻のアクトだった。

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薩摩ステージのトリを務めたのは、2人の鹿児島出身のメンバーを擁する氣志團。「落陽」で始まる硬派なステージでロックバンドとしてのカッコ良さを見せ、代表曲「One Night Carnival」でピークを作ったと思いきや、「今日、出演出来なかった盟友・マキシマム ザ ホルモンの代わりに」と「One Night Carnival」に「恋のメガラバ」をマッシュアップした「One Night Carnival 2018~恋のワンナイ~」を披露。さらに「氣志團の最新型です」とDA PUMP「U.S.A.」をマッシュアップした「One Night Carnival 2035~O.N.C.~」を披露し、最高潮の盛り上がりを生む。タイプは全く異なれど、それぞれが魅せた“本物”のステージ。音楽の良さや楽しさがジャンルで分けられるものでないことも、このヘスは教えてくれる。

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ここでこの日、あまり訪れる時間の無かった与論ステージへと移動し、トリの若旦那のステージを観戦。鹿児島の名店や名産、人気の焼酎も並ぶフードエリアも隣接するため、食事をしながらゆっくり観覧することも出来る、薩摩や大隅とも異なる与論ステージの魅力を感じていると、1曲目「純恋歌」の弾き語りで始まった若旦那のステージにたくさんの観客がダッシュで群がる。フィールドに大合唱が起き、温かい雰囲気に包まれる会場。その様子を見ながら、素晴らしいライブはたくさん見たけれど、それだけではない『GSH』の楽しさをまだまだ味わえていないなと思い、2日目はこっちの会場もしっかり探索して、満喫しようと心に決める。『GSH』、奥が深い!

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そして、いよいよ初日も最後のステージを残すのみ。初日のトリを飾ったのは、発起人のタブゾンビが在籍する、SOIL &“PIMP”SESSIONS。「ぶち上げるぞ~!」と社長(Agitator)が雄叫びを上げ、クールで激しい爆音ジャズで会場中を踊らせる。「もしかして、林檎ちゃん待ち?」と笑わせながら“本物”の演奏で聴く者の心を震わせた5人。大きな歓声と拍手で迎えられた、特別客演の椎名林檎を加えての「カリソメ乙女」で始まった後半戦は、妖艶さと色気を振りまきながら、表現力豊かなボーカルで聴かせる椎名と壮大かつ深みのあるソイルの演奏が絶妙に絡み合う、まさにここでしか見ることの出来ない贅沢すぎるステージで観客を魅了。MCでは椎名の「(『GSH』は)来年もやるんですか?」の問いかけに、「やります!」と明言したタブゾンビ。そのやり取りに来年へと繋がる物語を想起させる中、「殺し屋危機一髪」、「Moanin'」でたっぷり余韻を残して終演。帰り道、鹿児島港へと向かう桜島フェリーの乗船中、余韻に浸りながら今日の様々な風景、そして明日の楽しみを想像するとニヤニヤが止まらなかった。

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取材・文=フジジュン