ライブレポート

『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2018』DAY2
2018年10月8日(月・祝)鹿児島市・桜島多目的広場&溶岩グラウンド


初日同様の快晴に恵まれて、見事なヘス日和となった『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2018』(以下、GSH)2日目。この日も“ヘスを思い切り楽しもう!”という観客が早朝から桜島フェリーに乗船して続々と押し寄せ、会場は初日以上の賑わいと興奮に満ちていた。

ferry

朝9時、『WALKINNFES!』推薦枠として、大隅ステージには地元・鹿児島の3人組ガールズバンド、ぷぷぷがオープニングアクトとして登場。キュートなルックスとは裏腹のタフな演奏、スッと耳に飛び込むキャッチーな楽曲、タイプの異なるフロント2人のツインボーカルやコーラスワークも心地よく、たくさんの魅力を持ったぷぷぷのステージに観客もしっかり盛り上がって、楽しむ準備も万全!

o01_pupupu

オープニングアクトに続いて、薩摩ステージに登場したタブゾンビの挨拶と呼び込みで、ヤバイTシャツ屋さんが登場。『GSH』2日目が本格スタートした。
「おはようございま~す!始まるよ~!」と、元気に始まったヤバイTシャツ屋さん。「9時半からの出番ってなかなかないよ?朝9時半から君らの体力を奪い取ろうと思ってます!」と、ハイテンションなステージでフィールドを埋める観客を沸かすと、「曲いっぱいやります」と新曲「KOKYAKU満足度1位」を含めた全7曲、さらに追加で1曲を短い時間にぎっちり詰め込んで観客に叩きつけた。

s02_yabat

「イベントの途中ですが“桜島大根収穫祭”を始めます」と桜島大根のお面姿で桜島大根型のみこしに乗って、客中から登場したのは四星球。マキシマム ザ ホルモン「ぶっ生き返す」のイントロで沸かせたり、ダンボール製の長渕剛のバイクにまたがったり、この日のために用意した小ネタも満載で沸かせた4人。「明日から始まるしょうもない生活の思い出し笑いになりたい」とコミックバンドの意地を賭けたステージに、バカバカしくもグッときてしまった。

o02_sushinchu

陽が高くなり、会場に暑さが増してきた頃、熱さと激しさとキュートさを届けにきたBiSH。「SMACK baby SMACK」で始まったライブはヤバT、四星球でしっかりアガった会場の熱量がさらにアガるのが分かったし、観客の渇望感もとんでもない!会場中が掛け声や振り付けを合わせ、みんなで作り上げていった感のある彼女らのステージ。「ムカつくこともあるけど生きて、また会いましょう」と披露した「beautifulsaさ」、彼女らと共にみんなが肩を組んでヘドバンを合わせた「BiSH -星が瞬く夜に-」と全力で駆け抜け、鹿児島にしっかり爪痕を残していった。

s03_bish

「これはもう夏でしょう!?」と夏曲やアッパーな曲を連発して、鹿児島に暑く熱い夏を完全に呼び戻したのはKEYTALK。「九州の誇らしいヘスが出来て、ホクホクです」と熊本出身の寺中(Vo&Gt)が嬉しそうな顔を浮かべ、祭りの輪のような巨大サークルが出来た「MATSURI BAYASHI」、会場を引っ掻き回した「MONSTER DANCE」でお祭り騒ぎの盛り上がりを生んで終演。ギラギラと照らす太陽の下、異常なほどの熱気に包まれている会場。この段階でまだ12時(笑)。『GSH』2日目、どこまで熱さを増していくのか?

o03_keytalk

事前に配られたうまい棒がフィールド中に掲げられ、「うまい棒! うまい棒!」とみんなが声を合わせる「デリシャスティック」で熱くバカバカしく始まった打首獄門同好会のステージは「12時になったけど、まだお昼ご飯に行って欲しくありません!」と訴え、マグロや骨付き肉のバルーンがフィールドを跳ねる中、魚、肉、二郎(ラーメン)と食べ物の歌を連発して「我々をお昼ご飯の時間に呼ぶとこうなるんだよ!」と絶叫。ラストは「主食で締めたい」と「日本の米は世界一」で沸かせ、誰ひとり昼メシ休憩に行かせなかった。と、ここまで見て感じたのは、『GSH』に集まったオーディエンスの渇望感のもの凄さ。

s04_uchikubi

現在、全国のフェスで引っ張りだこの人気者がずらり揃った2日目序盤。いまやネットや動画の普及で、これらのアーティストのステージやフェスの様子をPCやスマホで見ることは簡単だし、“フェスとはこういうものだ”とレポートなどで知った気になることも容易だが、鹿児島在住のキッズなどは、それを生で見る機会もなかなかなく、こういった本格フェスを体感するのが初めてだという人も多かったはず。ネットでまだ見ぬ音楽フェスへの期待を膨らませたキッズが実際にフェスを訪れて、全国フェスを盛り上げてきた猛者たちのリードのもと、思い切り声を上げてジャンプして、盛り上がる。その体験はかけがえのない物だと思うし、大げさでなく一人の人生を変えてしまうくらいの体験になると思う。

first_experience

ここで僕も昼メシを調達するために、与論ステージエリアへと移動。与論ステージではROLLYがライブを終え、アキラ100%が体を張ったステージで盛り上げる中、ジャンベ体験やけん玉、キーホルダー作りが楽しめるワークショップエリアを見て回り、お土産屋さんや地元の焼酎飲み比べが出来る屋台で鹿児島の魅力に触れ、鹿児島の名店が並ぶフードエリアに並ぶ魅力的なメニューに「どれにしようか?」とうぬぬと悩み、カレーと牛串を購入。ちなみにこの日は暑さも手伝って、鹿児島名物のしろくまやかき氷が大人気。グッズ売り場ではKAGOMANIAの味のあるイラストで西郷どんが描かれた「SEGODON Tシャツ」が大人気で、会場内にはこのTシャツを着ている人をよく見かけたし、僕も購入しようとしたらサイズが無くて断念したほど(その後、空港で購入)。フードを購入した後は、女王蜂のステージを見るために大隅ステージへと移動。与論ステージから大隅ステージへの距離はさほどないが、ライブもコンテンツも盛りだくさんすぎて、『GSH』を満喫しようとしたら、時間が足りないという嬉しい悩み。もっと余裕のあるタイムテーブルにして下さいっ!(笑)

y03_rolly
audience_02

「鹿児島に来るのは初めて」と語るも、ステージ前ではジュリアナ扇子を振るファンが熱狂。青空の下に臆することなく、怪しく激しい独自の世界観を構築していた女王蜂。

o04_joohbachi

スカの軽快なビートと突き抜けるホーンサウンドを青空に響かせ、フィールドを巨大ダンスホールへと変貌させたHEY-SMITHと続き、

s05_heysmithPhoto by HayachiN

「平成最後の夏は終わったと思ってたけど、延長ありがとうございます!」とGEN(Ba&Vo)が笑い、全国のフェスを盛り上げまくった今夏の集大成と言えるアクトを見せた04 Limited Sazabysがフィールドをぐちゃぐちゃに掻き回す。

o05_04limited

揃いのスーツ姿で激しくクールなロックンロールを鳴らしたTHE BAWDIESは、「HOT DOG」で始まった怒涛の後半戦に観客が拳を上げて声を合わせて大熱狂!

s06_bawdies

キュートでカラフルな衣装とは裏腹な、タフで力強い歌と演奏で驚かせたSCANDALは「どうしても鹿児島の人に会いたかったし、今の私たちを見せたかった」と意気込みを語り、キラーチューン連発で現在のSCANDALを表現。「瞬間センチメンタル」で一体感を生むと、予定に無かった「LOVE SURVIVE」まで披露し、「持ってるパワーの全部を出し切ります」の宣言通り、完全燃焼。平成最後の夏の締めくくり、鹿児島という地でのライブなど、それぞれがステージに立つ意味や意義を持ち、全力で挑んでいた30分のステージ。その一つひとつが観る者の心に響き、最高の思い出としてしっかり刻まれていく。

o06_scandal

続いて薩摩ステージに登場したのは、「オリンピックは一人しか勝てないけど、ロックンロールは全員優勝。全員優勝させに来ました!」と宣言した、サンボマスター。年代性別を問わぬ観客がフィールドから溢れるほど集まる中、「青春狂騒曲」で始まる代表曲に大合唱が起き、「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」の“愛と平和コール”で会場をひとつにする。MCでは山口隆(Vo&Gt)が熱いメッセージを届けると、「あなたたちを見てどう思ったか教えましょうか? 輝いて見えましたよ!」と吠えて「輝きだして走ってく」を披露。会場中が拳を突き上げて大合唱を合わせたあの瞬間、そこにいる全ての人の心が繋がっていた。

s07_sambo

会場中の大歓声で迎えられ、鉄壁のバンドサウンドとダンスの視覚的表現、Kj(Vo&Gt)の表現力豊かなボーカルで破壊的な盛り上がりを見せたDragon Ashは、「初めて見たバンドとか、初めて見たディストーションギターとか、初めて見たKenKenとか忘れないで、ずっと音楽好きでいて下さい。来年はマキシマム ザ ホルモンと一緒に出ます」とKj(Vo&Gt)が告げて「Fantasista」を叩き込むと、ナヲ(マキシマム ザ ホルモン)とタブゾンビもステージに登場し、最高潮の盛り上がりを見せる。

o07_ash

もし、自分が初めて訪れた音楽フェスで、この日のサンボマスターやDragon Ashのステージを体感したとしたら? キラキラと輝く目でステージを観るオーディエンスの姿を見ながら、僕はそんなことを考えていた。 会場が夕陽で赤く染まる頃、薩摩ステージにはSiMが登場。攻撃的な歌と演奏で会場の空気を一変すると、フィールドに超巨大なサークルを作り、会場を掻き回す。MCでは「鹿児島に血が騒ぐと思ったら、親父が鹿児島人でした。半分はサツマニアンの血、もう半分は悪魔の血だから」と、MAH(Vo)が薩摩の血を継いでいることを告白。

s08_sim

会場が暗闇に包まれる頃、大隅ステージに登場したのはストレイテナー。「去年の夏、タブくんに誘われた時から出演を決めてました。九州人として誇らしいです」とホリエアツシ(Vo&Gt)が熱く語り、「Merodic Storm」にKj、「From Noon Till Dawn」にタブゾンビが参加。

o08_tener

手足のように操るギターでビートを刻み、うなりを上げ、圧巻のパフォーマンスを魅せたサムライ・ギタリスト、MIYAVIのステージは超一流のギタープレイと色気ある歌声で会場を魅了すると、「Fire Bird」にATSUSHI(Dragon Ash)、「Strong」にタブゾンビを招き、スペシャルなコラボレーションを実現した。

s09_miyavi

「これから30分、みんなに嘘をついてもらいます。見えないギターも“見える”と自分に嘘をついて下さい」と始まったDJ ダイノジは大隅ステージのトリ、ダイスケはんのヘルニア発症で出演をキャンセルしたマキシマム ザ ホルモンの代打という重要な立ち位置で登場。「今日出演する予定だったホルモンも、信じれば見えるかも知れない」とホルモン楽曲をかけまくると、ホルモンの嘘のライブにモッシュが起きる。すると突然かかった「いすゞのトラック」を歌いながら、ステージに本物のナヲが登場! さっきまでのフィールドの盛り上がり、みんなの優しい嘘に「なにこれ!? おばちゃん、袖で泣いちゃったわよ」と感動を告げるナヲ。「来年はマキシマム ザ ホルモンで参加させて下さい!」の宣言に、会場から大歓声が起きる。

o09_dainoji

僕は、フェスがただのお祭りやショーケースにならないため、最も重要なのは“物語”だと思っている。『GSH』にはタブゾンビが地元の有志と13年前から構想を練ってきて、ついに実現したという物語はあれど、今年が初開催ということもあって、出演者や観客を繋ぐ物語は年を重ねていく中で生まれていくものだと思っていたのだが。今年、ホルモンのキャンセルを受けて盟友たちがカバーや特別な演出を用意したり、ホルモンと共に再び出演することを宣言したり。ホルモンが桜島フェリーに「出場キャンセルのお詫び」のポスターを自腹で出稿して、来年リベンジを果たすことを宣言したりと、ホルモンの出演キャンセルがあったことで、『GSH』は来年に続く物語をひとつ生みだした。来年の『GSH』でホルモンはどんな復活劇を見せてくれるのか? どんな凄まじいアクトを見せてくれるのか? 今年、ホルモンのアクトが見れなかったことは残念だったが、ホルモンはフェスに重要な“物語”を『GSH』に残してくれたのだ。

hormone

そして、2日間に渡って行われた『GSH』もいよいよ大トリを残すのみ。2日間を締めくくるのは、THE King ALL STARS。加山雄三(Vo&Gt)、佐藤タイジ(Gt/THEATRE BROOK)、古市コータロー(Gt/THE COLLECTORS)、ウエノコウジ(Ba/the HIATUS)、タブゾンビ(Tp/SOIL&"PIMP"SESSIONS)など、各バンドの中心人物となる“King”ばかりが集まった、信じられないくらい豪華なこのバンド。ロックンロール・ヒーローたちの重厚かつ壮大な演奏に、若大将がエレキギターを弾きまくり、歌いまくる。MCでは「僕の先祖が鹿児島出身で、篤姫に従えていたんだ」と、鹿児島との繋がりを語った若大将。深いゆかりのあるこの地で、「CRAZY DRIVING」や「ミザルー」はリードギターとしてバンドを牽引し、大好きなエルヴィス・プレスリーの「LOVE ME TENDER」や「夜空の星」は甘く魅惑的な歌声をしっかり聴かせる。ラスト「MY WAY」を歌い上げ、大きな拍手で観客に見送られた若大将がステージを去ると、演奏を終えたバンドが続けて演奏する「君といつまでも」のイントロに大きな歓声が上がる! 「幸せだなぁ、僕は君たちといる時が一番幸せなんだ」とタブゾンビが台詞パートを担当し、再びステージに現れた若大将が雄大な歌声を響かせたこの曲で会場に多幸感が包まれる中、『THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2018』は2日間の幕を閉じた。

s10_king

こうして2日間の“ヘス”を振り返り、レポートにまとめると、フェス慣れした音楽ファンや全国のフェス情報をまめにチェックしている人には、ヘスのスペシャル感や他のフェスとの違いが伝わりづらいかも知れない。しかし、このヘスが果たした最も大きな意味は九州最南端の地で、なかなかフェスを見る機会のない人、初めてフェスに参加する人、初めてフェスに触れる人に素晴らしい音楽体験を届けられたことだと思う。東京など利便性の高い土地に住んでいると、そんな当たり前のことを忘れがちだが、フェスに行きたいと思っても、そんな容易には行けない人がほとんど。そこで鹿児島でこういった大型音楽フェスが立ち上げられて、なかなかフェスに行く機会のない九州の音楽ファンがフェスに参加する機会が出来たことは、革命的な意味があると思う。タブゾンビが「来年もやります」と宣言したように、ここから継続的に開催されていくであろう『GSH』。このフェスの存在はきっと、これからの九州音楽シーンに大きな影響を与えることだろう。明治維新から150年。鹿児島の象徴である桜島の麓で開催された『GSH』の大成功をもって、音楽維新の狼煙が本当に上がったのだ。

取材・文=フジジュン